Sunrise on a turtle nesting beach in Central Sulawesi, Indonesia 

アジア太平洋

生物多様性ホットスポット

 

東メラネシア諸島

1600 の群島からなる東メラネシア諸島は、かつては、原生に近い熱帯の生態系がそのまま残る地域でしたが、生態系の喪失が加速していることから、新たに、ホットスポットに指定されました。その原因は、主に、過剰な森林伐採や炭鉱、持続可能ではない農法によるものです。この地域は地球上で、地形的に最も複雑な地域の一つです。小さな島々が点在しているため、ホットスポット全体としても、島単位としても、固有性が非常に高くなっています。

注目すべき固有種には、雄大なソロモンオオワシや、12種以上の絶滅の危機に瀕したオオコウモリが含まれています。また、 島々は、多様な維管束植物種が多く植生しており、固有種は3,000種にも及んでいます。

概説

東メラネシア諸島のホットスポットはニューギニアの北東から東にかけて位置し、ビスマルク諸島、アドミラルティ諸島、ソロモン諸島、およびバヌアツ諸島を含んでいます。政治的には、パプアニューギニア地域(ニューブリテン島、ニューアイルランド島、マヌス島、ブーゲンビル島を含む)、およびソロモン諸島全てとバヌアツのすべてを含んでいます。 このホットスポットは、合わせて約1600もの島々と、10万 km²の土地を含んでおり、ポリネシアーミクロネシアのホットスポットの2倍以上に相当します。

この地域は地球上で最も複雑な地形の1つで、さまざまな歴史や発展をたどった、多様性豊かな島々です。ビスマルク諸島の2つの主要な島である、ニューアイルランド島とニューブリテン島は2000mを越える山々に囲まれています。

ビスマルク諸島の中で、比較的小さな島々の火山には、最近、噴火し、今も活動が続いているものがあります。ソロモン諸島最大の島、ブーゲンビル島は、いくつもの高い山脈が(火山性を含む)を連なり なかでも、標高2,685mのバルビ山は、ホットスポットの中で最も高所に位置しています。

ホットスポットの生息地には、沿岸の緑地、マングローブ林、淡水の湿地林、低地熱帯雨林、季節性乾燥林、草原、および山岳熱帯雨林など、様々な植生が見られます。ただ、生息種については、数種類しかないポリネシアーミクロネシア地域に比べれば、豊富ですが、ニューギニア地域に比べると非常に限られています。

 

© Piotr Naskrecki

ヒマラヤ

ヒマラヤのホットスポットはエベレストに代表される世界で最も標高の高い山岳地帯です。 これらの山々は、急激な隆起により形成されたことから、草原や亜熱帯の広葉樹林、樹木限界ラインを超えた高山の草地まで、多様な生態系を有しています。標高6,000メートル以上で維管束植物が確認できるほか、コンドル、トラ、ゾウ、サイ、およびアジア水牛を含む多数の大型鳥類と哺乳類の重要な生息地となっています。

概説

ヒマラヤは、北パキスタン、ネパール、ブータン、インドの北西および北東の各州にかけて3,000キロメートル以上に渡って弧を描くように伸びています。また、世界の8,000メートル級以上の山々が全て集まっており、世界一高い山、サガルマータ(エベレスト山)もここにあります。

この75万km²の広大な山岳地帯は、 2つの地域に分けることができます。一つは、ネパール、ブータン、西ベンガルとシッキム、アッサム、アルナーチャルプラデシなどインド各州、チベット南東エリア、北ミャンマーまでを含む東ヒマラヤと、クマオン・ガルワール、北西カシミール、北パキスタンまでの西ヒマラヤです。 これらほぼ人工的に分けていますが、アンナプルナとダウラギリ山の間を流れるカリ・ガンダキ川は、その深く削られた渓谷のおかげで、多くの種を外界から守る砦の役目を果たしてきました。

500メートル以下から8, 000メートル以上までヒマラヤ山脈の標高差は激しく、たった2,3百キロメートルの間に、世界一標高が高い沖積草原地帯や山麓沿いの亜熱帯広葉樹林から、中腹部に広がる温帯広葉樹林、山頂付近を覆う混合針葉樹林や針葉樹林、樹木限界ラインの上の高山草原地帯まで、多様な生態系をもたらしています。

 

© CI/photo by Russell A. Mittermeier

インドビルマ(インドシナ半島)

熱帯アジアの200万kmの面積を占めるインドビルマ・ホットスポットは、現在も世界的に注目される生物の宝庫です。過去わずか10数年の間に発見された大型哺乳類は6種(3種のホエジカ、ドゥクモンキーの一種、ウサギの一種、レイヨウの一種であるサオラ)にのぼり、固有種の淡水カメ類も数多く生息していますが、そのほとんどが乱獲と生息地破壊により絶滅の危機に瀕しています。鳥類相もきわめて多彩で、ハイナンミゾゴイ、ワキフチメドリ、サイゴンミヤマテッケイなど1300種を数えます。

概説

インドビルマホットスポットはガンジス・ブラマプトラ平原の東に広がる237万3千km2の熱帯アジア地域にあります。かつてはネパール・ブータン・インドにまたがるヒマラヤ山脈とその周辺の山系も含めていましたが、現在、狭義の定義には、インドシナ地域を指しています。このホットスポットにはメコン川下流の集水域が含まれ、具体的にはバングラデシュ東部と北東インド、ブラマプトラ川の南岸を西端とし、ミャンマーのほぼ全域、中国の雲南省の一部、ラオス・カンボジア・ベトナム全土、タイのほぼ全域とマレーシア半島のごく一部と、中国南部沿岸の平野部(広西チワン族自治区と広東省)と沖合の島嶼地域(中国の海南島やインドのアンダマン諸島)をカバーしています。

インドビルマのホットスポットはスンダランドホットスポットに接し、その境界はカンガーからパッタニーにかけて(Kangar-Pattani line)のタイ-マレーシア国境ですが、フタバガキ科の常緑多雨林から湿性混合落葉樹林へゆるやかに移行していることから、スンダランドからインドービルマへの動植物相の移行地点はもう少し北のクラ地峡だとする分析もあります。

インドビルマの大部分は、季節によって気候パターンが全く異なる特徴があります。北部の冬の時期は、アジア大陸の安定した高気圧から、乾燥した冷涼な風が吹きつけるため、ホットスポットの南部・中央部・西部のほとんどは乾燥し晴天が続きます(乾燥北東モンスーン)。春になると、大陸性高気圧の勢力が弱まり、風向は逆転するため、南西モンスーンを形成する空気塊が海からの水蒸気を集め、丘陵や山脈にそって上昇し、大量の雨を降らせます。

インドビルマの生態系は多様性に富み、湿潤常緑樹林、乾燥常緑樹林、落葉樹林、山地林に代表されます。また、石灰岩が露出したカルストにはパッチ状の灌木林が、沿岸の一部にはヒース林が点在しています。加えて、インドービルマ特有の多様な局所的植生として、氾濫原湿地、マングローブ、季節浸水草原が見られます。

 

© CI/photo by Jake Brunner

ジャパン

日本列島を形成する島々は、南の温暖湿潤気候から北の亜寒帯地域に広がっており、変化に富んだ気候と様々な生態系を生み出しています。ジャパン・ホットスポットに生息する脊椎動物種のおよそ4分の1は固有種であり、絶滅危惧種のノグチゲラや海外で「スノーモンキー」として有名なニホンザルなどがいます。特に、両生類の固有率が高く、75パーセントが固有種です。

日本の自然を破壊している最も深刻な要因の一つは都市開発です。また、マングースやブラックバスといった外来種の移入も大きな影響を及ぼしています。

概説

ジャパン・ホットスポットは、日本列島を構成する3,000を超す大小の島々を取り囲み、日本の総面積(約370,000 km²)を含んでいます。日本は、北海道、本州、四国、九州の主要4島に加え、小笠原諸島(無人島、硫黄あるいは火山列島)、大東諸島、南西諸島(琉球諸島と薩南諸島)、伊豆諸島を含む数多くの小さな群島から構成されています。また、日本は3つの地殻プレートが集まる場所に位置しており、このプレートのズレによって多くの火山、温泉、山地、地震が生み出されています。

日本は北緯22度~46度に位置し、南の温暖湿潤気候地域から北の温帯気候区まで幅広く、この緯度範囲、そして日本の山地形(国土の約73パーセントが山地で、富士山山頂の3776メートルが最高地点)によって、日本には様々な気候がもたらされています。本州中央に位置する山脈は、地球上でも有数の豪雪地帯である一方、太平洋側は非常に乾燥した地域となっています。九州南端の少し南に位置する屋久島は、世界でもまれにみる多湿な場所であり、場所によっては年間降水量が5,000ミリを超すところもあります。

 

中国南西山岳地帯

気候と地形の変動が目覚しい中国南西山岳地帯は、多様な生態系を有しており、温帯にある植物相としては最も固有性が豊かな地域の一つです。固有種であるキンシコウ、ジャイアントパンダ、レッサーパンダ、キジ数種は、絶滅危機種でもあります。ダム建設、違法な狩猟、過放牧、森林伐採などが、この地域の生物多様性に対する主な脅威となっています。

概説

中国南西山岳地帯のホットスポットは、チベット高原の東端と中国平野の中央部の間を高山山脈に沿って、26万2400 km²以上に渡っています。ホットスポットのインドビルマの北で、同じくホットスポットのヒマラヤのすぐ東に位置し、北西は乾燥したチベット高原に、北は南ガンスー(甘粛省)のタオ川に、東は四川盆地と雲南省東部の高原に接しています。

中国南西山岳地帯は、非常に複雑な地形で、2000m以下の谷床から、ミニヤコンカ(Gongga Shan)の山頂の7,558mまで標高は様々です。山の尾根は一般的に、南北の方向で、ヒマラヤ山脈に対して垂直に走っています。この地域はは 雲南省西部の横断山脈、高黎貢山,(Gaoligong)、雲南省西部の怒山(Nu Shan)、チベット高原の南東端に位置する、ニンチンタングラ山脈(念青唐古拉山Nyainqentanglha)、寧静山(Ningjing)、他念他翁山(Taniantaweng Shan)やその他の山々、四川省の沙魯里(The Shaluli)、Gongga Shanを含む大雪山 (Daxue)、雀児山(Chola)、 Qionglai Shan山系、そして、四川省-甘粛省の境界に当たる重慶を含んでいます。なお、 雲南省中央部の哀牢山(Ailao Shan)と無量山(Wuliang Shan) はこのホットスポットではなく、インドビルマホットスポットに含まれています。

中国南西山岳地帯には、アジアの中で、種が最も豊かになる気候と熱帯水系が揃っています。ホットスポット内を横切る、あるいはそこを水源とする主な河川系には、金沙江(Jingshajiang)、Yalongjiang, 大渡河 (Daduhe)、岷江(Minjiang)で、いずれも揚子江の支流ですが、これらは、東シナ海まで続いています。メコン川(瀾滄江:The Lancangjiang)は南シナ海に向かって、雲南省、ラオス、カンボジア、ベトナムを流れ、怒江(Nujiang)は、雲南省とビルマを抜けて、インド洋に達します。

雲南省の一部の、1年中、霜の降りない地域や、北方の国境近くにある、短期間ですが霜が降りない地域から、四川省、雲南省、チベット地域の高山の頂上付近にある永久凍土まで、この地域は、複雑な地形のために、気象条件は、非常に多様です。この地域の年間降水量は、雲南省の高所地域の南西側斜面では1000mmを越える一方、北西部のチベット高原の雨影(雨雲を含んだ風が山を越える際に、風上側で雨が降り、風下側は「陰」となって乾燥する現象)の場所では、年間400mm以上降ることはめったにありません。

この特徴的な気象や地形的な状況により、 ホットスポットには、広葉樹林、針葉樹林、竹林、低木群落、サバンナ、草地、大草原、淡水湿地、高山帯の低木、崖錘植物特殊群落など、非常にバラエティ豊かな植生が見られます。 

 

© Kyle Obermann

ニューカレドニア

南太平洋に浮かぶニューカレドニアは、四国とほぼ同じ面積の中に、少なくとも5つ以上の固有植物種が生息する豊かな生態系を有しています。世界で唯一の寄生針葉樹(毬果植物)や、世界中のナンヨウスギ科樹種のおよそ3分の2が、このホットスポットだけに見られます。しかしながら、ニッケル採掘、森林破壊、侵入種などが生態系を脅かしており、特徴的なとかさを持つカグ―は、同じ科の中で、唯一、生き残っている絶滅危惧種となっています。

概説

ニューカレドニアは、世界のホットスポットの中でも最も面積の小さい地域の一つです(四国ほどの面積)。この群島は、南太平洋メラネシア地域の最南端、オーストラリアから1200キロメートル東に位置します。近年までフランスの海外領土でしたが、現在のニューカレドニアは完全自治まには至らないものの、実質上の政治的自治を持つ海外領邦への移行途上にあります。ニューカレドニア・ホットスポットの面積は 18,972 km2で、東側のグランドテール島(本島)とロワイヨテ諸島、北方のベロップ列島とサプライズ諸島、南方のイルデパン諸島から構成されています。また、さらに西方のチェスターフィールド諸島と、東方の無人島のマシュー島とハンター島も含まれていますが、ここは、政治的にニューカレドニアに依存していますが、陸上の生物多様性の価値は限定的になっています。

ニューカレドニアの生態系には、何種類かの自然植生が含まれます。かつて、常緑熱帯雨林が、この地域の約70パーセントを占めていましたが、現在は中央の山岳部に点在する窪地に残るのみです。比較的乾燥している西海岸地域には、硬葉樹林がところどころ見られ、島の南側1/3を占めているのは、標高を問わず、マキの灌木地帯です。高地に生息するマキは、約 100 km2の原生地のほとんどを占める一方、低地のマキは、この国で最もよく見られる自然構造となっています。この自然構造は、以前はこの国のたった5%ほどしか占めていませんでしたが、おもに火災の攪乱の結果、現在は、約 4400 km2(ニューカレドニア国土の23%)まで広がっています。その他の植生として、西海岸沿いにはマングローブ林があります。

今日、草地とニアウリ(Melaleuca quinquenervia)のサバンナは、6,000 km2(同国土の32パーセント以上)を占めており、ニューカレドニアを訪れる人や住民はこれがニューカレドニアの典型的な風景であるとしばしば思い込んでいます。実際は、繰り返し起きる火災や畜牛の放牧やシカの持ち込みなど、人間活動の結果によるものなのです。

 

© Shawn Heinrichs

ニュージーランド

山岳地形を持つ島々から成るニュージーランドには、多様な固有種が生息する温帯熱帯林があります。代表的な種として、翼のほとんどない鳥で有名なキーウィが挙げられます。ここに生息する哺乳類、両生類、爬虫類はどれも世界でこの地域を除いて見ることはできません。最も深刻な脅威は侵入種であり、700年前の人類の入植以来、すでに50種の鳥類が絶滅しました。今日、侵入種がニュージーランドの動植物相に最も深刻な脅威をもたらしていますが、森林伐採や湿地の排水による生息地の破壊もまた重要な問題となっています。

概説

南太平洋のオーストラリアの南東約2,000 kmに広がる島々からなるホットスポット、ニュージーランドは、3つの主要な島(北島、南島、およびスチュワート島)と、諸島を囲むいくつもの小さな島々:南島の東800kmにあるチャタム諸島、北にケルマデク諸島、南に亜南極諸島(バウンティ諸島、アンディポデス諸島、キャンベル諸島、スエアズ諸島、オークランド諸島、およびマーコーリー島)を含め、27万197km2;から成り立っています。また、オーストラリア領になるロードハウ島、ノーフォーク島も含まれています。

ニュージーランドは生物地理学的に、ノーフォーク・ライズ通じてでニューカレドニアとつながっており、ニュージーランド、ニューカレドニアともに、ゴンドワナ大陸から同時に分離しましたが、この2つは約4000万年前までは陸続きでした。 両ホットスポットは、「古代の救命ボート」と呼ばれ、その大部分は、隔離され、独特の動植物相を進化させてきました。

ニュージーランドは、亜熱帯から亜南極圏まで広範囲な緯度にかかり、岩だらけの山、なだらかに起伏した丘、広い沖積平野など、様々な景観が広がっています。また、地震や火山活動が頻発するなど、構造学的に活発な動きが見られます。陸面積のおよそ75%は標高200m以上にあり、最高峰はアオラキ(クック山)で、3,700mに達しています。

気候は、島全体で変わりやすく、生物多様性の分布に重要な役割を果たしてきました。 年間降水量は南アルプスの西側斜面で1万2000mm(世界一降雨率が高い場所の1つ)から、同じく東側の雨蔭(山の風下側で雨が少ない)の300mm以下まで様々です。ケルマデク諸島は、亜熱帯性気候で、1年を通じて暖かく、湿度がありますが、チャタム諸島は基本的に、曇りがちで、湿気を伴った気候で、冬は、冷涼で湿度があり、夏は、暖かく、基本的に乾燥しています。

ニュージーランドの森林は激減してきましたが、現存している森林のうち、最も印象的なのは、巨大なニュージーランドナギモドキ(Agathis australis)で、極北にのみ生息しています。北島の他の森林は被子植物に覆われ、島の南側部分と南島は、ゴンドワナ大陸の裸子植物とマキ科と南部のブナ科(Nothofagus spp.)に覆われています。  

南アルプスの西側の森林は地球上で最も広大な温帯熱帯林の中にあります。その他の植生タイプは、低木や灌木地帯、樹木限界線より上の雪草(Chionochloa spp.)などを含んでいます。より高い高度になると、植生はクッション植物が特徴となります。キク科の低木で、奇妙な形をした“ベジタブル・シープ” (Raoulia and Hastia spp) など、その多くは固有です。

 

© Art Wolfe/Art Wolfe Stock

フィリピン

フィリピンホットスポットには7,100を超える島々があり、世界でも最も生物多様性が豊かな国の一つとされています。原生林面積のわずか7パーセントしか残っておらず、多くの固有種は、その断片化した森林を生息地とし、ここには、6,000種以上の植物種とヨイロハナドリ、フィリピンオウム、アカガシラサイチョウ、巨大なフィリピンワシといったたくさんの鳥類が含まれています。両生類における固有性も著しく、パンサーフライングフロッグなどユニークな種がいます。

フィリピンは最も危機に瀕した地域の一つでもあり、歴史的には、木製品のために森林伐採が行なわれ、現在では、農業の需要や人口増加に伴う開発行為が原因となり、森林伐採は進んでいます。

概説

フィリピンはインドネシアに次ぐ世界最大の列島で、太平洋最西端の総面積297,179 km²を囲む7,100以上の島々から成っています。島はインドネシアの北、ベトナムの真東に位置します。また、国土全体が、ホットスポットであり、非常に多様性に富んだ、数少ない国の一つであり、地球規模での保全を優先するべき国となっています。

列島は、中には3,000万~5,000万年前にもさかのぼる、複雑かつ長い地質学的背景をもつ離島の連なりから構成されています。少なくとも17の活火山があり、フィリピンの島々は太平洋地域の環太平洋火山帯の一部となっています。この列島は南北1,810キロメートルに渡っています。ルソン島北部から台湾までの距離はたったの240キロメートルしかなく(類縁する植生もみられます)、パラワン島南西部はマレーシアのボルネオ島から40キロメートルしか離れていません。パラワン島はおよそ145メートルの深さの海峡によって隔てられており、スンダランド・ホットスポットにおいてフィリピンとボルネオの両国に植生における類縁性がみられ、ワラセアにおいては非常に強い類縁性をもつ動物相がみられます。

数百年前、フィリピン諸島はほとんどが熱帯雨林に覆われ、国土の大部分は、美しい硬木と称され、非常に背の高い、フタバガキ科(Dipterocarpaceae)に占められた低地熱帯雨林に覆われていました。より高地に行くと、今や、その熱帯雨林は、山地林や苔が生えた森林(ほとんどの場合、低木や草木で構成される)に取って代わられ、残りその他の部分は、小規模ですが、季節林、混合林、サバンナ、マツが占める雲霧林などで覆われるようになりました。

 

Close up of butterfly on a flower
© CI/photo by Haroldo Castro

ポリネシア・ミクロネシア

南太平洋に広がるポリネシア・ミクロネシア・ホットスポットは、4,500の島々からなり、世界的な生物多様性危機の中心地の一つとなっています。200年前のヨーロッパからの人類入植に伴って持ち込まれた侵入種と過剰な狩猟の結果、25種の鳥類が絶滅しましたが、ミツドリやハワイ島のいくつかの森の鳥など、深刻な絶滅の危機にありながらも、生き延びている種もあります。

概説

このホットスポットは、4000万km2四方の広大な太平洋の中に、ミクロネシア、ポリネシア、フィジーの全ての島を含みます。土地の条件からみると、たった46,488 km2ほどしかない、世界で一番小さいホットスポットの一つですが(スイスの大きさほど)、北西のマリアナ諸島、パラオ群島から、東のイースター島(ラパ・ヌイ)、そして北のハワイ諸島殻南はトンガ、ニウエ島まで伸びています。

地質学的に、ポリネシア-ミクロネシア島は岩の多い小島、低いサンゴ環礁、および隆起した石灰岩島、ハワイやフィジーに見られるような、より大きくて、海抜の高い火山島が、これらの地域に生活している人々を支えています。ハワイやトンガ、サモアやその他北マリアナ諸島では、活火山、休火山が見られます。

ポリネシア・ミクロネシアホットスポットでは、至る所に広範囲にわたる生態系が見られます。そこには、12の主要な植生があり、最も広く分布しているものは、太平洋海洋沿岸で多く見られる耐塩性植物です。その他の主な植生は、マングローブの森、沿岸湿地帯、熱帯雨林、雲霧林、サバンナ、疎林、灌木地帯など様々です。

オーストラリア南西部

オーストラリア南西部のホットスポットの森林、高・低木林、荒地は、植物および爬虫類に高い固有性が見られます。フクロアリクイ、フクロミツクイ、ユーカリインコなどのお灸の脊椎動物も生息していいます。ウェスタン・スワンプカメは、保全活動の結果、生息数は増えましたが、依然として世界で最も絶滅の危機にある淡水カメの一種と見られています。オーストラリア南西部での生息地の喪失の主な原因は農業の拡大で、大規模な肥料の使用によって加速されています。原生動物相の主な脅威は、キツネやネコといった侵入外来種が持ち込まれたことです。

概説

オーストラリア南西部のホットスポットは、オーストラリアの南西端の356.717 km²を占めています。このホットスポットには、南西植物州(Southwest Botanical Province)が含まれますが、隣接の南西インターゾーン(Southwestern Interzone)は除外しています。

このホットスポットは、世界の5つの地中海性生態系の一つで、ほとんどの雨は、冬の間に降り、夏は乾燥しています。幅20-120kmの広大な海岸平野は、風化した花崗岩、片麻岩、赤土の層を含んだ、なだらかに起伏した高地に変化しています。

土着の植物は栄養が乏しい砂や赤土の土壌に適応し、広大な土地の収穫や羊の放牧を支えています。この地域は、草原はないですが、木が多く、森や森林、灌木、荒野が主な植生です。この地域の主たる植生タイプはフトモモ科ユーカリ属(Eucalyptus)の森林、ユーカリ属が多くを占めている“mallee”の低木です。

Kwonganという言葉は、アボリジニのヌーンガーという部族の言語から来たもので、西オーストラリアの様々なタイプの灌木を含めていますが、地中海性の植生タイプを持つ、その他の国のマキ、チャパル、フィンボスなどに似ています。Kwonganの基本的な構成タイプは、雑木林、低木の荒野、荒野で、それら合わせて土着の植生の約30%を成しています。多くの植生の構成単位は固有で、ユーカリ属の森林、kwonganの形を取るものなどあります。

 

© Art Wolfe/www.artwolfe.com

スンダランド

スンダランドの壮観な動植物相は、急速に成長する産業的林業の普及や、他国で食用・薬剤源としての価値が認められているトラ、サル、カメ種などを狙った国際的な野生生物取引の結果、深刻な危機に直面しています。このホットスポットにしか見られないオランウータンの個体数は、劇的に減少し、東南アジアのサイ2種にとっての最後の避難所が、ジャワ島とスマトラ島に確認されています。熱帯地域の多くで見られるように、森林は商業用途のために減少しつつあります。特に、ゴム、アブラヤシ、紙産業は、スンダランド・ホットスポットの生物多様性が直面する弊害要因(有害勢力)のトップ3となっています。

概説

スンダランドのホットスポットは、インド・マレー半島の西側半分を覆う地域で、約17.000もの赤道直下の島々からなり、なかでも、主要な島は、ボルネオ島(725,000 km²)とスマトラ島(427,300 km²)で、世界で最も大きな島のうちの2つとなっています。100万年以上前は、スンダランドの島々はアジア大陸とつながっていましたが、更新世の海面変化に伴い周期的にこのつながりが消滅し、ついに現在のように分離した島々になりました。このホットスポットの地形は、スマトラ島とボルネオ島のような、海抜4101メートルものキナバル山を擁する起伏の激しい山岳地域から、かつては23もの活火山が割拠し、肥沃な火山性の土壌を持つジャワ島やバリ島まで、多岐に渡っています。そして、2189メートルもの花崗岩と石灰岩の山々が、マレー半島の骨格を成しています。

政治上スンダランドが占める範囲は、タイ南部のほんの一部(パッタニー県、ヤラー県、ナラティワート県)、マレーシアのほぼ全域(マレー半島ほぼ全域と、ボルネオ島北部にある東マレーシアのサラワク州とサバ州)、マレー半島先端のシンガポール、ブルネイ、そして多様性の宝庫に富む国、インドネシアの西側半分、カリマンタン島(ボルネオ島)のインドネシア領、スマトラ島、バリ島 また、インド管轄であるニコバル諸島も含まれます。

スンダランドは、3つのホットスポットに隣接しています。スンダランド・ホットスポットとその北西にあるインドービルマ・ホットスポットの間の境界線を、ここではカンガーーパッタニー(Kangar-Pattani)ラインとしますが、この線がちょうど、タイーマレーシア国境を横切っています。また、スンダランド・ホットスポットのすぐ東にはワラセアが位置し、かの有名なウォレス線によって分断されています。また、同じくホットスポットのすぐ北東側には7100もの島々からなるフィリピン・ホットスポットが存在しています。

低地の熱帯雨林には、フタバガキ科の巨木がそびえたっています。砂や岩の海岸線の入江には海岸林が生え、泥の混じった海岸にはマングローブの森で縁どられ、内陸に入ると広大な泥炭湿地林が広がっています。いくつかの場所では、古代の隆起サンゴ礁が、土壌中に含まれる高濃度のカルシウムとマグネシウムに強い特殊な森林を支え、貧栄養な第三期の砂岩でできた尾根部分にはヒース林が発達しています。より標高が高くなると、深い苔、地衣類、蘭が茂る山地林が広がり、さらに高地では、藪のような亜高山性の森林がシャクナゲで覆われるようになります。山頂付近では、岩ばかりになり、その他の植生はほとんど見られません。

 

© Conservation International/photo by Haroldo Castro

ウォーレシア

インドネシア東部を中心としたウォーレシア・ホットスポットは、極めて多様な動植物相を有しており、生物多様性保全のためには、各島に自然保護地域を設立することが必要です。熱帯アンデスに次ぐ固有鳥類種の豊富さを誇りますが、比較的陸域面積が狭いことから、単位面積あたりの多様性は、極めて高いと言えます。世界最大のトカゲであるコモドドラゴンは、コモド島、パダール島、リンチャ島、フローレス島にのみ生息しています。

残念ながら、ウォーレシアの森は人口増加により減少しています。この森林破壊は、増えすぎた住民を居住者の少ない地域へ移住させようと提案された政府の住民移住計画により引き起こされたのです。

概説

ウォーレシア・ホットスポットは、ジャワ島、バリ島、ボルネオ島より東側と、ニューギニアと東チモールの西側にあるインドネシア中心部の島々です。陸地全体で338,494 km²を占めるこのホットスポットはスラウェシ島やモルッカ諸島、小スンダ列島も有しています。

ウォーレシアは、インドネシアにあるもう1つのホットスポットのスンダランドとはウォーレス線によって区分されています。ウォーレス線とは、インド-マレーシアとオーストラリアを分ける生物分布境界線です。この境界線とホットスポットの名前は19世紀のイギリスの探検家・博物学者であるアルフレッド・ラッセル・ウォーレスに由来しており、彼がその境界線の両側の植物相の違いを発見しました。

植生については、スラウェシ島とモルッカ諸島は大部分が熱帯雨林ですが、小スンダ列島の多くの地域では熱帯雨林は標高が高く風雨の影響を受けている場所で見つかっているだけで、主要な地域はユーカリの森を持つサバンナ森林地帯となっています。スラウェシ島東部のような低地には独特の痩せた超塩基性の土壌があり、鉄やマグネシウム、アルミニウム、重金属を豊富に含んでいます。このような痩せた超塩基性の土壌で育つ低地の森林には、非常に低い樹木が立ち、フトモモ科の植物が目立つようになるようです。

 

© Riza Marlon

インド西ガーツおよびスリランカ

急激な人口増加に直面するインド西ガーツおよびスリランカの森林は、材木及び農業用地としての需要により多大な影響を受けてきました。西ガーツ地方に残存する森林の多くは細かく分断され、スリランカでは元々の原生林のわずか1.5%が残るのみです。人口密度は保護地域周辺で増加する圧力と適応しており、その地域では多くの農民や木材伐採者、密猟者が不法に資源を利用しています。

毎年のモンスーンや高山地帯の影響も手伝って、このホットスポットには固有の植物や爬虫類、両生類が生息しています。スリランカには140もの固有の両生類が生息しています。この地域はアジアゾウやベンガルトラ、シシオザルなどの絶滅危惧種の生息地にもなっています。淡水魚の固有性も同様に非常に高く、140以上の在来種を有しています。

概説

インド南西部の西ガーツとスリランカ南西部の高原地方は400km離れていますが、その地質や気候、進化の歴史は驚くほど似ています。西ガーツは地元ではサフヤドリ連丘として知られており、マラバ平原とインド西海岸を平行に走る一連の山脈によって形成された約30-50kmの内陸地です。約160,000 km²の面積を持ち、その長さは、一部、幅30kmのパールガート峡谷によって分断されてはいるものの、インド南端から北部のグジュラートまで1600kmもあります。

スリランカは20mの深さのポーク海峡によってインド南部から隔てられている大陸島です。面積は67,654 km²あり、何度も続いた間氷期に度々インドと陸続きになりました。最近ではおよそ7000年前に140kmの幅の天然の陸橋により陸続きとなりました。

西ガーツは南西のモンスーン風を遮断することにより、半島型のインドの降水傾向に影響を与えています。山脈の西側斜面は豪雨を毎年経験しており(6月から9月までの南西のモンスーン期間中の降水量の80%を占める)、一方で東側斜面は乾燥しています。降水量も南から北へ行くにつれて減少しています。数十もの河川がこれらの山を起源としており、この中にはインド半島を東方向に流れる3つの主要河川も含まれています。このようにして、河川は飲料水や農業用水、水力発電の重要な源となっています。西ガーツの様々な降水パターンが、この地域の複雑な地形とともに非常に多様な植生を生み出しています。この植生には標高約1500mまでの地域には低地の雨陰地域と平原の落葉性の熱帯雨林地域が拡がり、標高1500m以上の地域には珍しいモザイク状の低木林やなだらかな草原が拡がっています。

スリランカの降水量はモンスーン風の影響を受け、島の大部分が年間2000mm以下と、比較的、降水量が少ないですが、南西部の湿地帯の降水量は年間5000mmにもなります。乾燥常緑林が乾燥帯全体の大部分を占めている一方で、フタバガキが拡がった熱帯雨林は湿地の低地帯を占めており、220 km²もの熱帯雲霧林は最大標高2524mの中央高地に生き続けています。

The Toque Macaque, Macaca sinica, is endemic to Sri Lanka.
© Rudy Rudran