東ヒマラヤほど多くの人びとの暮らしを支えている地域は、他にほとんどないと言われています。
ブータン、ネパール、バングラデシュ、そしてインド北東部一部まで広がるこの雄大な地域は、世界最高峰の山々を擁し、膨大な量の淡水を蓄えた巨大な氷河があります。これらの氷河は「第三の極」とも呼ばれ、グリーンランドや南極大陸に次ぐ、地球上で三番目に大きな氷河です。
この地からは、雄大なブラマプトラ川やガンジス川をはじめ、多くの重要な支流が生まれています。これらの河川は、10億人以上の人々の生活を支える文明の大動脈です。これらの水路は南下してインド洋に注ぐまで、氷に覆われた山頂から緑豊かな森林、広大な平野、そしてマングローブが生い茂る海岸まで、実に多様な景観を織りなしています。そして、これらの変化に富んだ環境に、ユキヒョウやレッサーパンダ、ベンガルトラ、アジアゾウ、そして希少なインドサイなど、多種多様な野生生物が生息しています。
水は、これらの生態系すべてをつなぐ重要な役割を担っています。特に、上流で変化が起きるとその影響は下流へと連鎖的に広がっていきます。近年東ヒマラヤでは様々な変化が進んでおり、人々の暮らしや自然環境に深刻な影響が出始めています。
🌎 Spanning Bhutan, Nepal, Bangladesh, and parts of northeast India, there are few places on Earth where nature sustains as many people as the #EasternHimalayas. But these countries are among the most climate vulnerable. Conservation International is working alongside partners in the region to support one of the largest reforestation and conservation projects in the history of South Asia. #MountainsToMangroves seeks to protect and restore nature across the Eastern Himalayas. Over the last year, Conservation International and local partners have rapidly scaled community efforts to restore lost ecosystems and promote sustainable livelihoods. This is just the beginning. Learn more 👇 https://www.conservation.org/projects/mountains-to-mangroves
東ヒマラヤが直面する脅威
東ヒマラヤは、気候変動の影響で世界で最も急速に温暖化が進んでいる地域の1つです。氷河が後退し、モンスーンの時期が変化するにつれて、河川の流れは不安定になり、一部は干上がり、また一部はより頻繁に、より深刻な洪水に見舞われています。バングラデシュ、ネパール、インドは、いずれも世界で最も気候変動の影響を受けやすい国にランクされており、バングラデシュでは人口の60%、インドでは80%が気候変動のリスクが高い地域に住んでいます。2022年には、この地域で150万人という数の人々が、異常気象によって住む場所を追われました。
2000年以降、東ヒマラヤ地域では森林被覆の10分の1近くが失われており、土壌浸食、水質汚染、そして頻繁な地滑りが発生しています。これらの災害は、人命や財産の損失を引き起こし、土地や水をさらに劣化させています。
100万ヘクタールの森林を保全する
「Mountains to Mangroves℠」プロジェクト は、気候変動と自然の喪失に対する緊急の対応として生まれた、南アジア史上最大規模の森林再生と保全プロジェクトの1つです。この地域で経験豊富団体が保全活動を実行し、コンサベーション・インターナショナルが支援するこのイニシアチブは、最も険しい山岳地帯に広がる100万ヘクタールの森林を保護および回復することを目指しています。
2030年までに、この共同イニシアチブは以下を目指します。
※地図に示されている境界線は、コンサベーション・インターナショナルが支持または承認を意味するものではありません。※提供 Biodiversity data: Vertebrate Biodiversity Range Size Rarity, 2021. Conservation International in collaboration with IUCN and BirdLife International. Population density data: www.worldpop.org - School of Geography and Environmental Science, University of Southampton; Department of Geography and Geosciences, University of Louisville; Departement de Geographie, Universite de Namur, and Center for International Earth Science Information Network (CIESIN), Columbia University (2018). Global High Resolution Population Denominators Project. Funded by The Bill and Melinda Gates Foundation.
10億人の暮らしを支える
2023年に発表したこのイニシアチブで、コンサベーション・インターナショナルとパートナー団体は協力して失われた自然を再生し、人びとが自然と共存しながら暮らしていけるように、地域の活動を支援しています。例えば、森林を伐採する代わりに、森の中で果物や薬草などを育てる「アグロフォレストリー」という方法や、自然を守るための知識や技術を学ぶ研修、そして、自然を守る仕事に就くための就業サポートなどが行われています。初期フェーズでは、ブータンの山奥からバングラデシュの川の近くまで、約6万ヘクタールもの広大な森林とマングローブ林を保護・また再生していきます。これらの活動はそこへ暮らす人びとはもちろん、動物や植物の生息にとってより良い環境をもたらします。
さらに、プロジェクトは科学を活用しています。コンサベーション・インターナショナルのムーア科学センターが、森林の状態や生き物の種類、人びとの暮らし、そして気候の変化などを詳しく調べています。集められたデータは、自然保護活動がどれくらい効果があるのかを判断したり、より良い方法を開発するのに役立てられます。
ATREE (Ashoka Trust for Research in Ecology and the Environment): ATREEは、環境保全の政策や実践に役立つ、様々な分野の知識を生み出す民間組織です。ATREE は Mountains to Mangroves と共に、危機に瀕した土地を保全し、劣化した土地を回復させるための重要な活動を始めています。最初の活動対象地域は、インドの西ベンガル州にあるシッキム、カリンポン、ダージリンの各地区です。
ブータン生態学会(Bhutan Ecological Society): ブータン生態学会は、科学、ビジネス、そして政策を結びつけ、レジリエンスのある地域社会と機能的なランドスケープを構築し、そして維持することを目標とする民間団体です。ブータン生態学会は、ブータン全土で土地の回復に取り組んでおり、将来的にこの活動を拡大するために、年間100万本以上の苗木を生産できる最先端の苗床を完成させました。
ブータン環境保全トラストファンド (BTF) : BTFは、世界初の環境トラストファンドで、1991年にブータン王国政府、国連開発計画、WWFの共同事業として設立されました。BTFは、原生林や私有地を含む劣化した森林地域に在来種の苗木を植えています。また、学校と連携した植林プログラムにも取り組んでおり、回復を加速させるために苗床を作っています。
フレンドシップ(Friendship):フレンドシップは、特に支援が届きにくい人びとが、尊厳と希望を持って平等に暮らせる世界を目指す国際的組織です。フレンドシップは、バングラデシュのシュンドルボンでマングローブ林を植林しながら、周辺地域に住む人々の暮らしを向上させています。将来的に地域の住民たちがマングローブ林を維持していくことができるように、様々な活動を行っています。
TERI (The Energy and Resources Institute): TERIは、研究、政策、コンサルティング、そして実行力を持つ、独立した多角的な組織です。Mountains to Mangrovesの一環として、TERIはアッサム州とナガランド州から、アグロフォレストリーによる植林、再生型農業の実践、そして森林保全活動を促進していきます。また、この活動で得られるカーボンクレジットを地域社会と共有し、持続可能性を確保するために、ボランタリーカーボンマーケットに登録する予定です。
"多くの人びとがアマゾンやコンゴ盆地の危機的な状況は理解していたとしても、地球上で最も気候変動の影響を受けやすい場所の一つである東ヒマラヤは、見過ごされがちです。「Mountains to Mangroves」プロジェクトでは、東ヒマラヤのもつ生態学的な重要性に対する世界的な認識を高め、インド、ブータン、バングラデシュ、ネパールの地域コミュニティと協力し、彼らがこれからも栄えていくことができるために重要な自然を大切に守ることで、この状況を変えようとしています"
リチャード・ジェオ
コンサベーション・インターナショナル アジア太平洋地域担当シニアバイスプレジデント