【論文から】海洋保護区の落とし穴

30 by 30 を成功に導くために

 

数十年に及ぶ乱獲の影響で、世界の水産資源の3分の1が減りました。これにより、海洋生態系の絶妙なバランスが崩れ、何億人もの人々の生活や食糧供給が脅かされています。

海洋保護区は、乱獲で苦しむ魚に安全な場所を提供し、個体数を回復させることを目的の一つとしています。

しかし、話はそんなに簡単ではありません。コンサベーション・インターナショナルとスミソニアン博物館による新たな研究によると、南メキシコからホンジュラスにかけて約1,000kmにわたる保護区の大半では成魚の数を増やすことに失敗しています。そのため、多くの場所で漁業は回復していません。

研究者たちは、これまで保護区内のサンゴ礁周辺に住む魚の年齢を詳しく調べたことはほとんどありませんでしたが、今回の研究は、”モーニングコール”(警鐘)であると、スミソニアン博物館の科学者であり、この研究の筆者でもあるスティーブ・キャンティ氏は話します。

「調査した場所の大半で、成魚の数は変わっていないか、もしくは減少していました」「魚の年齢を分析すると、成魚よりも稚魚の方がはるかに多いことが明らかになり、保護区の存在が成魚の個体数回復に役に立っていないことがはっきりと分かりました。これは魚群を回復させたい我々の努力を阻む結果です。」「成魚は不可欠です。魚たちの年齢が重要なのです。」とキャンティ氏は続けます。成熟した魚は、小さくて若い雌成魚よりもはるかに多くの、良質の卵を産むからです。

この調査によると、2006年から2018年までの12年間で対象となった111の対象保護区のうち、成魚のバイオマス(重さと大きさ)が著しく増加したのはたったの5箇所でした。対象保護区の大半に変化は見られず、28ヶ所では成魚個体数の減少が見られました。

「生魚の数が減少した保護区と増加した保護区には、いくつかの重要なパターンが見られた」と、コンサベーション・インターナショナルの研究者で論文の著者でもあるジャスティン・ノワコウスキーは言います。

成魚のバイオマスが減少した海洋保護区は、大規模な開発の近くにあり、周辺の海水温はかなり上がっていました。逆に、個体数が増えた保護区では、海水の温度変化が少なく、人間による開発の影響もあまり受けていませんでした。

決定的なのは、成魚の個体数が増えた全ての保護区は、海水温の上昇や沿岸開発があまり行われていない所であり、厳格に管理されていたということです。この調査で、たとえば、一部の漁法や、漁具を禁止しつつも商業漁業を許可している保護区、規制が十分に施行されていな保護区では、成魚が減少していることも明らかになりました。

「管理の弱いこれらの保護区の多くが、当初考えられていたほど魚群の回復に効果的ではないということです。逆に、厳格にそして十分に保護されている方が効果的ということが分かりました。規制がとても重要なのです。」とキャンティ氏は言います。「規制は費用がかかり、多くの保護区では資金不足に悩まされています。しかし、周辺コミュニティが関わり、地元による管理活動を行うことができれば、コストは大幅に削減できるでしょう。」と加えました。

”メソアメリカン・リーフ”として知られる沿岸地域には、500種以上の魚が生息し、緑豊かなマングローブ林や海草藻場が広がっています。ここはオーストラリアのグレート・バリア・リーフに続いて世界で二番目に大きな環礁です。

「この多様性が莫大な数の人々の生活を支えています。科学的知識と地域特有の知識を組み合わせ、協力し合うことができれば、コミュニティが健全な魚群の恩恵を最大源に受け取ることができるため、コミュニティによる自主的な管理の仕組みを作り出すことができます。」とキャンティ氏は言います。

世界規模の課題としては、何が海洋保護区を効果的にし、何がそうさせないかを理解することだと、ノワコフスキー氏は言います。世界は各国が地球の陸と海の30%を2030年までに保護することを約束した「30 by 30 」へ向けて進んでいます。

「現在、海洋保護区や他の保護区の増設とその説明が急がれています。我々は次の6年間で保護区の面積を現在の3倍以上に拡大しようとしているのです。これを正確に、確実に行動に移すことが重要です。」とノワコフスキー氏は言います。

そしてキャンティ氏は、この研究結果は滅入るような内容ではあったが、データには明るい兆しもあると強調します。ほとんどの対象区域で、過去研究してきた12年間は少なくとも魚の個体数は安定していたのです。

「稚魚が成魚になるのをどのように手助けするのか、が私たちが見逃している重要な要素です。一度それがうまくいけば、水産資源は増え、我々が望む目標を達成し始めるでしょう。」と締めくくりました。

 

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投稿 :Mary Kate McCoy, CI staff writer ※原文はこちら
翻訳編集: CIジャパン