「ブルーカーボン」や「生態系サービス」など、世の中には、環境に関する専門用語があふれています。コンサベーション・インターナショナルは、こうした専門的用語をわかりやすく解説するために「何だろう?」シリーズでお届けします。
今回のテーマは「アクアカルチャー(水産養殖)」。
アクアカルチャーは、魚を人工的に育てる方法で、魚や貝類、海藻などを池や川、湖、海などで育て、繁殖させて、捕獲することです。正しく行うことができれば、世界的に増え続ける魚介類への需要を持続的に満たすことができる水産方法といえます。
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アクアカルチャーはなぜ必要か?
なぜ、魚介類を養殖する必要があるのでしょうか?それは、漁獲できる天然魚の数に限りがあるからです。過去数十年で、魚介類の消費量は、世界的に大幅に増加しました。その結果、今では世界の天然漁場の3分の1が、乱獲や海洋汚染、気候変動の影響で枯渇状態にあります。 タラやサケなど、私たちが日常的に食している魚介類の個体数が世界中で急速に減り続けているという事実は、魚介類の繁殖速度より、人間の消費速度が上回っていることを表しています。
世界人口の約30億人、つまり7人中3人が、魚介類を主要なタンパク源としています。そうした中、アクアカルチャーは海洋や淡水生態系・淡水の生態系に負荷をかけずに、より多くの魚介類を生産する手段として期待されています。
アクアカルチャーの課題とは?
現在、世界で消費される魚介類の半分以上が、養殖によって生産されています。専門家は、魚介類への需要を満たすためには、2050年までに水産養殖の生産量を現在の倍に増やす必要があると予測しています。
しかし、水産養殖は環境負荷が大きいという側面が存在します。不適切な養殖は、沿岸部の森林伐採を伴う養殖場の拡大、化学物質や過剰な栄養分を含む排水による水質汚染、有害な藻類の大量発生などを引き起こし、周辺の生態系に深刻な影響を与える可能性があります。また、養殖環境の悪化や疾病の蔓延は、養殖されている魚介類そのものを全滅させてしまうリスクもあります。
しかし、適切な管理の下で行われる水産養殖は、自然環境に配慮しながら、生産量を増加させることができる可能性を秘めています。さらに、持続可能な方法で養殖された魚介類は、牛肉の生産と比較すると、温室効果ガスの排出量が大幅に少ないというメリットもあります。そのため、水産養殖は食料安全保障と環境保全の両立を目指す上で、重要な役割を担っています。
「適切な養殖」とはどんな養殖?
水産養殖を持続可能な方法で行うには、さまざまな要素を考慮する必要があります。例えば、養殖場から排出される水を周辺の生態系に戻す前に適切に浄化すること、養殖場の拡大を目的とした森林伐採を行わないこと、また、魚の健康管理のために抗生物質の過剰な使用を控えること、などが挙げられます。しかし、こうした取り組みは、養殖場だけの努力では限界があります。加工業者、輸入業者、小売店など、水産物が消費者の食卓に届くまで全ての段階において、持続可能な方法を採用していく必要があるのです。
では、一般的な養殖場では、具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか?
世界の養殖生産量の約9割はアジアで占められていますが、養殖は世界中の様々な地域で実施されており、その形態も多様です。例えば、ノルウェーでは大規模な淡水タンクでサケの稚魚を育成し、成長段階に応じて海洋の生簀に移して出荷可能なサイズまで育てます。一方、ハワイでは地域コミュニティが沿岸部の小規模な養殖池を管理し、ボラやエビを養殖しています。
魚介類や海藻の種類によって、生育に必要な環境や管理方法は異なりますが、共通して重要な要素も存在します。それは、養殖業者が常に養殖場と養殖生物の状態を注意深く観察し、最適な環境を維持することです。これには適切な水温と水質の維持、適切な量の飼料と栄養の供給、その他さまざまな要因の管理が含まれます。これらの要素のバランスが崩れると、養殖場だけでなく、地域の生態系全体に悪影響が及ぶ可能性があるのです。
環境保全と経済の両立
持続可能な養殖は、手間がかかるように思えるかもしれません。しかし、長期的に見れば、持続可能な管理が行われた養殖場は、環境に優しいだけでなく、持続可能でない養殖場よりも収益性と生産性が向上する可能性があります。より高度な疾病管理、高品質で低環境負荷の飼料、水質浄化技術への投資、選択的育種プログラムの導入は、養殖場の全体的な成功を劇的に向上させ、環境負荷を低減する効果が期待できます。持続可能な養殖は、数年後の大きな収益を見据えた先行投資と考えることができます。重要なのは、
養殖場の拡大ではなく、既存の養殖場の効率性を高めることです。
持続可能な養殖の発展
ここで、良いニュースがあります。コンサベーション・インターナショナルによる研究によると、水産養殖業界は、ここ20年間で大きく進歩を遂げています。かつてエビ養殖は、マングローブ林の破壊を伴うものでした。しかし、現在では、養殖業者はマングローブを破壊しない場所を選んだり、既存の養殖場で生産量をあげたりすることで、森林伐採しないよう努めています。コンサベーションインターナショナルは、マングローブ林を維持しつつ、より小さな養殖場で生産量の増加を図るため、金融機関やエビ産業と協力してマングローブの再生を支援しています。
また、廃棄も問題でした。大量の天然魚が粉砕され、少数の養殖サーモンやエビの餌として、使われていたこともありますが、現在では、植物性タンパク質や昆虫など、環境負荷の低い飼料原料を使用する養殖業者が増えています。植物性飼料は、天然魚飼料よりも安価であるという利点もあります。
状況は好転しているように思えますが、課題もあります。環境にやさしい養殖を試みる中小規模な養殖場の多くは、資金不足や技術不足の問題に直面しています。そうした場合でも、周辺の生態系を汚染しないよう、廃棄物を収集したり、管理を改善して抗生物質の過剰使用を制限したりするなど低技術でも対応可能な解決策によって、中小規模の水産養殖場に大きな変化をもたらす可能性があります。
しかし、実際に環境に良い影響を与えるためには、流域内のすべての養殖者が良い慣行を行う必要があります。
流域全体での協力
真に環境にプラスの影響を与えるためには、流域内の全ての養殖業者が協力し合うことが大切です。例えば、東南アジアのあるエビ養殖場が持続可能な方法で管理を行っていても、近隣のエビ養殖業者が水を汚染していれば、流域内の全ての養殖場が疾病の発生や水質悪化などのリスクに晒されることになります。そこで、コンサベーション・インターナショナルは、「管轄区域アプローチ(jurisdictional
approach)」を推奨しています。管轄区域アプローチとは、一つの養殖場ではなく、国または地域の管轄区域全体(この場合は水域)の環境の持続可能性、社会的責任、経済的パフォーマンスを向上させるための基準です。このアプローチの目的は、養殖農家がより良い管理方法の財政的および環境的メリットの実現を支援することです。これを実現するには、水産養殖業界全体で持続可能性を促進するインセンティブが必要です。
インセンティブによって、保証や資金調達方法の改善を行うことで、養殖場が経済的なリスクに対処し、環境にやさしい設備投資ができるようになるでしょう。例えば、コンサベーション・インターナショナルのインパクト重視投資ファンドでは、ケニア国内の低所得者地域にある、ビクトリア湖のティラピア養殖場に投資しました。この投資により、養殖場はティラピアの生産量を年間 8,000トン以上に増やすことにつながりました。
持続可能な養殖をさらに推進するための、有望な戦略や新しい技術は存在します。たとえば、沿岸地域ではなく、外洋に養殖場を開発することは、繊細な沿岸生態系を傷つけたり、マングローブ林を伐採したりすることなく、水産物の生産量を増やす上で有効な手段となります。このほか、養殖場で使用される水を浄化し再循環させることを可能にする技術は、疾病や汚染の防止にも役立ちます。
さらに、科学者たちは温暖化する水域に耐性を持つ魚の品種改良を進めることで、養殖業者が気候変動に適応できるよう支援しています。
新しい技術の開発は、アクアカルチャー分野を変革するために不可欠ですが、改善には、多くの地域で生産者の大部分を占める小規模養殖場でも導入可能な、低コストの解決策を含める必要があります。適切に実施されれば、アクアカルチャーは、環境負荷を抑えつつ食料と雇用を提供することで、世界の食料システムをより持続可能なものにする上で、重要な役割を果たすことができるでしょう。
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投稿 :Kiley Price ※原文はこちら
カバーイメージ:ケニアの持続可能な養殖場 (© Victory Farms)
翻訳編集: CIジャパン